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凍った涙
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電車を降りた瞬間、
頬を冷たい風がするりと撫でていった。
「寒っ」
誰もいないホームに、自分の声だけポツンと響く。
まるで、この世界に自分以外に誰もいないみたい…。
チープなSF小説のようなことを考え、
あまりにも平凡で、ありきたりな想像力に
自分で自分を笑ってしまう。
ほんと、ツマラナイやつだよな…オレ。
だからアイツも去っていったのかな、オレの前から。
「寒いね」ってオレを見上げるアイツに、
ちょっと面倒くさそうに
「ほら」って右手を差しのべて。
アイツの左手をきゅっと握って歩いた。
あのあたたかくて、やさしい瞬間は
もう二度と訪れないんだな。
冷たい風が、身体から体温を奪っていく。
心の中に微かに残った
アイツの温もりまでさらっていくように。
けれど、この冷たい風のイジワルに
オレは少し感謝している。
こぼれ落ちそうになった涙を
瞳の中に閉じ込めて凍らせてくれたから。
寒さをすべて風のせいにして、
オレはゆっくりと歩き出す。
アイツのいない明日に。
凍りついた涙を抱いたままで。
朗読/空閑暉
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