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サヨナラの場面
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「そんなの…卑怯です」
言われた意味がわからずに、一瞬、息が止まる。
そんな私にお構いなしに、彼女は言葉の刃をぶつけてくる。
「物分りのいい顔をして、冷静なふりをして
ひとりだけ、関係ないって態度で…」
大粒の涙をポロポロとこぼしながら言い募る彼女を、
私はただ黙って、じっと見つめていた。
「私のこと、憎いですよね? 恨んでますよね?」
私の恋人を奪った罪悪感に酔い、
悲劇のヒロインになりたがる彼女の思い通りになどならない。
「大人ぶって、私を見下して、
自分だけいいカッコしないでください」
容赦のない彼女の攻撃に反撃もせず、防御もせず、
私はただじっと、沈黙を貫いた。
「私なら、そんなに簡単に諦めたりしない」
あぁ、きっとこの情熱であの人を奪い取っていったのだと知る。
そんな若さと傲慢さが、羨ましくも、疎ましくもあった。
「本当に好きなら、諦めたりできない。
私は、私なら…」
何も言わないまま、私はくるりと背を向ける。
泣きじゃくる彼女を、あの人は優しく抱きしめているのだろう。
私は泣きはしない。
顔を上げ、前を見て、ゆっくりと歩き出す。
あの人と彼女のいない世界へ。
朗読/伊藤麻菜美、姫野つばさ
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