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第101回~第150回

第101回

「いつもありがとう」って、恥ずかしいから小さな声で。
でも、そう思っている気持ちは言葉で表せないくらい大きいから。
「何か言った?」「なんでもない」我が家は今日も平和です。

 

第102回

穏やかな笑顔が好きだったけど、もうお別れだ。
これからは、情熱的な瞳がボクを見つめてくれる。
さようなら、ハル。よろしくね、ナツ。

 

第103回

ゆっくりと目を開けたキミはキョロキョロと周りを見回し、
ボクに目を留めると「おはよう」とにっこり笑った。
パタパタと動き出すまで約5分。起動速度は改善の余地ありかな。

 

第104回

心の声が聞こえるようになったのはいつの頃からだったか。
聞きたくないことをたくさん聞き、知りたくないこともたくさん知った。
あの人の本当の気持ちなんて、気づきたくなかったのに…。

 

第105回

この心と身体に刻まれている記憶が、幸せだったと告げている。
今はもう失くしてしまった、遠い日の出来事たち。
その一つひとつを想い出し、彼女の一日は変わることなく暮れていく。

 

第106回

スゴイこと、なんてしなくていいよ。そのままのキミでいて。
無理して笑わなくたって大丈夫。キミがいればボクは幸せだから。
そんな気持ちに気づいて。ね、ボクのしっぽを見ればわかるでしょ?

 

第107回

見ているだけで心がザワザワと騒ぐ。冷静な仮面が剥がれそうになる。
近づきたくないのに、離れるとチクリと小さな痛みが胸を刺す。
「なぜ?」と困惑するキミ。知らなかった? それが「好き」ってことだよ。

第108回

どうにかしてキミを笑わせたい。泣き顔なんて見たくない。
でも、やさしく抱きしめるなんてボクにはできないから、
キミに笑顔が戻るなら、ボクはピエロでいいんだよ。

 

第109回

「いらっしゃいませ」と、マスターのやさしい声。
珈琲の香りと穏やかな時間が懐かしく、心地いい。
もう存在しないはずのこの場所に、ボクは今日、帰ってきた。

 

第110回

これが最後のチャンス。きっともう、逢うことはかなわない。
だからせめて、「さようなら」を告げたかったんだ。
明日から、キミのいない世界を生きていくボクのために。

 

第111回

「おはよう」というにはかなり遅い。もうお昼だよ?
背伸びをしながらあくびをひとつ。髪の毛、寝癖がひどいね。
さぁ、今日もキミの一日が始まる。ごめんね、そばにいられなくて。

 

第112回

遠くに教会の鐘の音を聴きながら、過ぎた日を思い出す。
笑ったこと、泣いたこと、ケンカしたこと、手をつないだこと。
やさしかった仕草も愛しいその声も、もう、私のものじゃないんだね。

 

第113回

彼は嘘つきだ。いつだって本当のことなど言わない。
笑顔でごまかし、スルリとかわし、ひょうひょうと切り抜ける。
それなのに、このサヨナラだけは嘘じゃないなんて。

 

第114回

ひと目惚れなんて信じてなかった。そんなの薄っぺらいって。
外見だけを好きになっても長続きなんてしない。すぐに醒める。
はずだったのに、私は今も、一方通行のレールの上にいる。

 

第115回

ゆるゆると顔を上げると、そこは見知らぬ風景が広がっていた。
ここは、どこだろう? いや、それよりも、私は、誰だろう?
誰か、答えを知らないかい? 私がここにいる意味を。

 

第116回

花びらに落ちた朝露が、光を受けてキラキラと輝く。
まるで、彼に愛されてキレイになっていくキミのようで、
僕は思わず目をそらし、小さくつぶやく。幸せに、なあれ。

 

第117回

この声が、誰かに届いていると信じたい。たとえ僅かでも。
いつか、誰かが、きっと、ここに来てくれる。私のもとへ。
その日をただ待っている。指先すらも見えない暗闇の中で。

 

第118回

朝起きて「おはよう」と声をかけながら花に水をやる。
色とりどりの彼女たちは、うれしそうに花びらを揺らした。
「ありがとう」と言っている気がして、僕はそっと微笑んだ。

 

第119回

いつもの駅で電車を降りて、改札を出て、階段を降りる。
…と、そこには見知らぬ風景が広がっていた。ここ、どこ?
いつもの風景を探してフラフラ歩く。酔いが覚めるまであと数時間。

 

第120回

夫が妻に言う。「なぁ、これ、いつもと味違わないか?」
妻が夫に応える。「そう? いつもと同じ味付けだけど?」
何が変わったのか。変わっていないのか。夫婦のみぞ知る。

 

第121回

不規則に揺れる月のブランコに身を任せてゆらりゆら~り。
つまらなそうに地上を眺める天使がいました。
その瞳がキラキラと輝き出すのは、後もう少し先のお話。

 

第122回

急に雨が降り出して、びしょ濡れになりながら早足で歩く。
ふっと雨が止まり、見上げれば、無愛想な黒い傘が見えた。
「ひどい降りですね」それが、あなたとの出会いだった。

 

第123回

キミが笑う。ボクの知らない誰かの隣で。
キミが泣く。ボクの手が届かない遠いどこかで。
終わってしまった物語を、ボクは何度も読み返している。

 

第124回

ある日ふいにやってきて、するりと居座ってしまった。
ねこの話? いいえ、これは人間の話。
ふらりと出ていってしまった、気まぐれな男の話。

 

第125回

目を閉じたまま、口元にわずかな微笑みを浮かべたキミ。
楽しい夢でも見ているのだろう、とホッと息を吐く。
ゆっくりおやすみ。キミを悲しませる現実が追ってこない世界で。

 

第126回

キミが望むものをすべてあげよう、とその人は言った。
けれど私には「望むもの」がない。いや、わからない。
だから、何も望まない。その人の思い通りにはならない。

 

第127回

退屈なんてしていられない。だって、人生は短いから。
のんびり行けばいいんだよ。人生って案外長いからさ。
私の人生はどちらだろう。答えを知るのはまだ先のこと?

 

第128回

いつも見ていた笑顔。なかなか終わらないおしゃべり。
ずっとあたりまえだと思っていた右隣のポジション。
失くしてしまうと知っていたら、大切さに気づけていたの?

 

第129回

明るい太陽が降り注ぎ、眩いくらいの青空。
自分の未来を照らしてくれるようだと彼女は思った。
それが、サヨナラから始まる新しい世界だとしても。

 

第130回

緑が生い茂る森の奥の奥。昼間でも暗く静かなこの場所で、
小さな勇者を見守るように、風はそよぎ、光がきらめき、花たちも揺れる。
まだ、冒険は始まったばかり。勇者の未来は、誰も知らない。

 

第131回

想い出はいつだってやさしい。この胸を温かくしてくれる。
些細だけれど、とても大切なもの。だから今日も私は…、
誰とも知れない他人の想い出を取り出して眺めている。

 

第132回

ゆっくりでいい。あんまり急がないで。慌てなくていいんだよ。
いや、むしろもっとゆっくり、一歩ずつ、確かめながら歩いてほしい。
どうか、キミを見守れる時間が、少しでも長く続きますように。

 

第133回

「ごめんなさい」なんて言ってほしいわけじゃない。
ボクの心に寄り添えないのはキミのせいじゃないから。
運命なんて言葉がキミを連れ去るなら、ボクは何を憎めばいいんだろう。

 

第134回

「溜息つくと幸せが逃げるよ」ってキミは笑った。
「大丈夫。キミがいれば僕は幸せだから」
そう言って笑った僕は知らなかったよ。本当に幸せが逃げてしまうなんて。

 

第135回

いつものようにドアを開ける。「ただいま」とポツリ。
誰もいないはずの部屋には、なぜか明かりが灯っていた。
失ったはずの笑顔がボクを出迎えてくれた。「おかえり」

 

第136回

幼い頃、ごちそうはハムサンドだった。
ひとりきりのお昼でも、ニコニコと笑顔がこぼれた。
壁一枚向こうで争う父と母の声を聴きながら、それでも私は必死に笑う。

 

第137回

「わからない」と男はつぶやく。その顔は困惑しきっていた。
頭の中を駆け巡るのは、無数の「なぜ?」ばかり。
答えてくれる人はいない。男はただひとり、立ち尽くしている。

 

第138回

古ぼけた想い出は、きれいサッパリ捨ててしまおう。
いらないものばかりしまい込む悪いクセとはサヨナラしよう。
明日からは新しい自分になる。だから、今日はまだ、泣いていいよね?

 

第139回

夏にはまだ早い。でも、陽射しは強く熱い。
身体を蕩かすように。心を焦がすようように。
この気持ちに名前をつけるのはまだ早い。今はまだ。

 

第140回

あなたが幸せならそれでいい。他には何も望まない。
そんな物分りのいい嘘を吐く彼女をじっと見つめる。
笑顔の仮面の下に潜むは、嘆きの天使か、悪魔の冷笑か。

 

第141回

真夜中のことば遊び。彼のキライなところを1つ言えば、
好きなところが2つ、3つと思い浮かんでしまう。
そんな自分に苦笑しながら、彼女は今夜も、想い出とともに眠る。

 

第142回

「昨日まで見ていた風景は夢だったのか」と男はつぶやく。
彼の目の前には、何もない。心地よい空間も、お気に入りのメロディも。
あたたかな笑顔すらも。一つ残らず消えた。彼だけを残して

 

第143回

夕立に降られた帰り道、ボクはキミと出逢った。
ずぶ濡れで小さく震えていたキミ。その姿に初めて抱いた想いは、
薄れることも、消えることもなく、今もこの胸にある。

 

第144回

目を閉じていれば、何も見なくて済む。傷つかずにいられる。
恋をして、苦しくて、臆病になって。彼女は、諦めた。
だから、物語は続かない。用意されたハッピーエンドを知らぬまま。

 

第145回

いつから始まっていたのか、男はしばし呆然とした。
気づかなかった自分の迂闊さを、今は笑うこともできない。
無縁だと思っていたよ。誰かをこんなに愛おしいと思う気持ちなんて。

 

第146回

キミの好きな和菓子を買って、ついでに花も一輪。
柄じゃない? 僕もそう思う。だからちょっと恥ずかしい。
でも、年に一度の特別な日だから…いいよね?

 

第147回

不思議な夢を見た。水にぷかりぷかりと浮かんでいる。
行く先も知らず漂って。なのに、心は穏やかで不安なんてない。
ここにいたい、という望みは叶わない。だから僕は、大きな声でないた。

 

第148回

声に出せない想いは、そっと心の中でつぶやくだけ。
誰にも知られないように。あなたに伝わらないように。
そう思っているのは彼女だけ。目は口ほどに物を言うのさ。

 

第149回

目覚めれば、隣にキミがいて、穏やかな寝息を立てている。
今はまだ、朝と言うにも少し早い時間。ひとり幸せを噛みしめる。
だからもう少し。もう少しだけ、醒めずにこの世界にいさせてほしい。

 

第150回

このひとことを伝えたら、すべてが終わってしまう。
もう、笑い合うことも、名前を呼ぶことも、ない。
あなたがいない世界で生きていく。明日からはひとりで