ふたりでいることが一番楽しいことだった。
秀一は見目麗しいというタイプではなかったけれどよくモテた。けれど、女の子から呼び出され告白されるたびに、困ったような顔をしながらもきっぱり断るのだ。
試しに付き合うなんていい加減なことはしないし、片っ端からOKして侍らせるようなバカもしない。まして、仲の良い私を隠れ蓑にしてごまかすような不誠実なこともしない。妙な言い方だけど、きちんと振ってあげるのだ。
ありもしない希望や気を持たせたりしないよう、けれど、相手を傷つけないよう、真摯な態度でNOを告げる。それを一番身近で見ていた私は、秀一に告白する勇気など持てなかった。
瞬く間に高校生活が過ぎ、あたり前のように同じ大学へ進んでも、私と秀一の距離はまったく変わることはなかった。
呼吸をするように自然にそばにいる関係。そのポジションを私は手放したくなかったのだ。
周囲から「おしどり夫婦」なんて呼ばれても笑ってやり過ごし、私は、自分の気持を隠し続けた。
いつか、一歩先の関係へ進める時が来ると願いながら、心の中を悟られないように秀一の隣で笑っていた。
けれど、そんな「いつか」は永遠に来なかった。秀一にとって私はどこまでも、いつまでたっても友だちでしかないと知ったのは、大学2年の秋のことだった。
あの日は、イヤになるほどいいお天気で、久しぶりのドライブに誘われた。
秀一の好きなおかずを詰めたお弁当を持って、私はどこかウキウキとした気分でクルマに乗り込んだ。
いつものように助手席に座ると、何となく違和感があった。
乗り慣れた秀一のクルマの助手席。でも、何かがいつもと違うような気がした。どことなくソワソワとした秀一の態度も妙だと思った。
同年代の他の男の子たちに比べ、秀一は大人びた印象があった。少し低音の声と落ち着いた口調がそう思わせていたのかもしれない。
それがあの日は、まるで別人のようだった。クルマの運転にも集中できない様子で、時々、ちらりとこちらに視線を投げては慌てて元に戻す。なにか言いたげに口を開いたかと思えば、声を発する前に小さく息を吐いてあいまいに笑う。そんなことを何度も繰り返していた。
こんな秀一を私は知らない。
訝しく思う一方で、私には何か予感めいたものがあった。自分たちの関係が変わるかもしれない。
そのひらめきが間違いでなかったことを、私はすぐに知ることになる。
夏休みに二人でよく来た海に着くとクルマを降り、賑やかだった季節の名残を感じさせない砂浜へと出る。しばらく歩くと、秀一は意を決したように立ち止まり、ちょっと頬を赤らめながらも言い放った。
「あのさ、オレ…ナオちゃんに告白した」
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