私は心から湧き出てきた言葉を必死になって紡いでいく。
「今までずっと、ありがとう。秀一の心に居場所をくれて、ありがとう。たくさんの楽しい時間を、ありがとう」
ボロボロと涙を零しながら、秋生の身体であることも忘れ、私は秀一に伝え続ける。
「だから、だから…幸せになって。ずっと、見守ってるから。幸せになってね」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、私は懸命に笑顔を作った。その様子を唖然として見つめていた秀一が、はっとしたようにつぶやく。
「果南?」
その言葉に、ドキリと胸が鳴る。
気づいてくれたのだろうか。秋生の身体の中にいる私の魂に。届いたのだろうか。私の、茅島果南の言葉が。
秀一は、フルフルっと頭を左右に振ると、もう一度、目の前にいる秋生の姿をした私を見つめる。
「何だろうな。秋生のはずなのに、まるで、目の前に果南がいるみたいだ。さっきの言葉も全部、果南から言われた気がしてるよ。まったく、どうかしてるな。緊張しすぎて幻覚でも見たかな」
最後、冗談めかして言った秀一だったが、果南の気配を感じ取ってくれたようだった。
いや、幻と思われていてもいい。私はちゃんと伝えた。自分の気持を、一番大切な人に。きちんと伝えることができた。だからもう、それでいい。
そう思った瞬間、私の身体は、スルッと秋生の身体から離れた。しかし、すっかり馴染んだふわりとした浮遊感はなく、私の身体は上昇し始めていた。
空へと向かっていく感覚に、私は思わず納得する。
そうか、いよいよ私、あちらの世界へ行くんだ。
不思議と恐怖はなかった。スッキリとした晴れ晴れとした気分で、私は空へ昇っていく。
「果南っ!」
秋生の声が聞こえた気がした。けれど、それはもう遥か下の方で、秋生の姿も、大好きな秀一も、私からは見えなくなっていた。
空へと向かっていた私の身体は、少しずつ薄くなり、キラキラと光る粒となっていく。
消えていく自分を実感しながら、もう見えない秀一に、私は最期の言葉を贈る。
「好きだよ、秀一。大好きだよ」
ずっと言えなかった、やっぱり届かなかった言葉は、私と一緒にキラキラとした光の粒になって地上に降り注ぐ。
せめて一粒でも、秀一の髪に舞い降りればいい。そのくらいは許してほしいと思いながら、私は静かにこの世界から消えた。
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