「なんで独り身なのかって?」
そう聞き返した声が
多少尖ってしまったのは勘弁してほしい。
確かに「無礼講だ」とは言った。
飲み会だから酒も入って口も滑るだろう。
でも、だ。
いきなりそこに踏み込んでくるか?
大きなお世話だって言うか、傷口抉るな。
オレだって、好きで独り身でいるわけじゃない。
しょうがないだろう。
アイツ以外、どうしても好きになれないんだから。
出逢ってから十年。好きだと自覚してからも十年。
それなのに、一度だってこの気持ちを口にしたことはない。
おそらくこの先もずっと、告げることはないだろう。
決して手に入れることのできない可憐な花。
いっそ、手折ってしまえばいいと思ったこともある。
その花が見えない場所へ、香らないところへ
逃げてしまいたいと、何度も願った。
それでもなお、かなわないと知ってもなお、
オレの心は、アイツから離れようとはしないのだ。
まったく、往生際が悪いにもほどがある。
悔しいほど可愛くて、苦しいほど愛おしくて
心がくしゃりと歪む。
アイツから逃れられないオレは、いつか壊れて
その時やっと、自由になるのかもしれないな。
朗読/島田陵平