絵を描くのが苦手だ。
その才能のなさと言ったら、致命的と表現する他ない。
しかし、花や風景を美しいと思う感性は備わっている。
だからこそ、始末が悪いとも思う。
どんなにその美しさに心を動かされても、
それを表現するスキルもセンスもないのだから。
これはもう、絶望的である。
実は僕にはもうひとつ、致命的な欠陥がある。
絵を描くこと以上に、恋愛が苦手なのだ。
これまた、呆れるほどの才能のなさ。
そして、恋を実らせる能力がないにもかかわらず、
人を好きになる心は持っているのだ。しかも、人一倍強く。
ところが、その想いを素直に表現することができない。
これもやはり、絶望的なのである。
それでも、努力をすれば、
絵も恋を上達できるのでは…と
わずかな希望にすがった時期もあった。
しかし、結果は惨敗。
どんなに素晴らしい先生に手取り足取り指導を仰いでも、
絵はいっこうに上手くならないし、
どれほど恋愛スキルに長けた友人に
恋を成就させるマニュアルを授けられても、
僕の恋が実ることはなかった。
自分が感じたそのままを、
美しい線と色で表現できたなら、
人生はどんなに豊かになるのだろう。
自分の心に募っていく想いを、
表情で、仕草で、言葉で伝えられたなら、
人生はどんなにキラキラと輝き出すのだろう。
ないものねだり、と言われても、
僕はやっぱり絵を描きたくて、恋がしたくて、
これからもジタバタし続けるだろう。
いつかはこの想いが、実ることを切に願って。
朗読/山口龍海