「お前は強いから、ひとりでも大丈夫だよな」
そんな使い古されたセリフで、
私はあっさり切り捨てられた。
あまりに陳腐すぎて、
出かかっていた涙も慌てて引っ込んでしまう。
この人は今まで、私の何を見てきたのだろう。
何だか急に
ふたりで過ごした時間が色褪せていくような気がした。
私たちは、いつも平等で、対等だった。
私は彼に「幸せにしてほしい」なんて望んだことはない。
幸せは、ふたりで一緒に作っていくもの。
それが私たちのやり方だった。
あのセリフを聞くまで、私はそう信じていた。
何も言えずにただ立ち尽くす私を残し、
彼はもう、背を向けて歩きだしていた。
ありふれた別れのシーンに取り残された私は、
呼び止めてすがることも、大声でなじることも、
笑ってサヨナラを言うこともできない大根役者だ。
もしこれがお芝居なら、
納得のいく別れが演じられるまで
何度だってリテイクできる。
けれど、今の私には
OKシーンなど期待できるはずもない。
自分の気持ちを表す言葉も、仕草も、表情も、
何ひとつ、わからないのだから。
強い女の役を
最後まで演じきれなかった私をなぐさめるように
静かに雨が降り出した。
このまましばらく濡れていようか。
想い出まですべて、雨が洗い流してくれるまで。
朗読/蒔苗勇亮