雨が降ると、必ず会う人がいる。いや、
雨が降らないと会えない人、
と言った方がいいのかもしれない。
かなり目立つオレンジの傘をさした彼女とすれ違う交差点。
ほんの一瞬でも、今の僕にはかけがえのない時間だ。
彼女の存在に気づいたのは、ちょうど一年前の雨の朝。
寝坊をして駅へ猛ダッシュしていた僕は、
チカチカ点滅を始めていた交差点で、初めて彼女とすれ違った。
印象的なオレンジの傘の中、
彼女は静かに泣いていた。
あんなに急いでいたのに、
一瞬、僕の目を捉えたその光景に足が止まる。
振り向いて後ろ姿を見送る僕を、
クラクションが現実に引き戻したっけ。
それから毎朝、交差点で彼女の姿を探した。
けれど、その人を見つけることはできなかった。
あの日の光景は幻だったのか。
そう思い始めたある日、
僕は、探し続けた人を見つけた。
印象的なオレンジの傘の中に。
そう、その日も雨だった。
それから、雨が降るといつも、
交差点で彼女と会うことができると知った。
けれど僕は、声をかけることすらできずにいる。
ひとことでも声を発したら、
そのまま彼女が消えてしまうような気がするから…。
だからせめて、雨が降ることを願いながら、
今夜も逆さてるてる坊主を吊してみる。
いい歳した男がやることかね、
と自分にツッコミながら、空を見上げる。
無常にも、空には無数の星が瞬いていた。
やっぱり彼女は、幻なのかもしれないなぁ。
朗読/紺谷勇太
朗読/井せきただし