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星に願いを

ひとり、酒をあおり、したたかに酔った夜、
僕はふらふらと、いつもの道を家へと向かっていた。
足取りはかなりアヤしく、
大きく蛇行したり、他愛もない段差につまずいたりしながら歩く。
そんな僕の目の前に、星がひと粒、落ちてきた。
 
思わず、空を見上げる。
そこにはただ、いつもと変わらない、
灰色のベールをかぶった都会の夜空が広がっているだけ。
何か特別なことが起きた気配はない。
けれど、僕の目の前には、たしかに星がひと粒、落ちていた。
 
(願いを叶えてあげる)
 
星は、僕の心に直接語りかけてくる。
酔っぱらいの幻想、かもしれない。
けれど、その声はしっかりと、はっきりと僕の心に響いた。
 
「なんでも叶えてくれるのかい?」
 
(なんでもいいよ)
 
「どんなことでも?」
 
(そう、どんなことでも)
 
しばらく頭をひねった後、僕は静かに告げた。
 
「それなら、
 僕をキミが元いた場所へ連れて行ってくれないか」
 
星は何も言わず、
じっと僕を見つめている…気がした。
 
「そこで僕は星になりたいんだ。
 いつの日か、キミのように誰かの元へ舞い降りて、
 その人の願いを叶えてあげられる星にね」
 
たぶん、僕の気のせいだと思うけど、
その時、星がそっと微笑んだんだ。
少し、照れくさそうにね。
 
そうして僕は、星になった。
 
あなたが今、見上げているこの空のどこかで、
僕は今夜も静かに瞬いている。
誰かの願いを叶える日を、心待ちにしながら。

朗読/空閑暉