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漂流

僕はずっと、待っていた。
誰かが――何かが――
僕をそこへ連れて行ってくれることを。
僕はずっと待っていた。
 
いつ頃からだろう。
この世界が、
自分のいるべき場所ではないと知ったのは。
どこかにある自分の世界へ、
僕はいつか帰るべきなのだと知った。
それが、どこにあるのかもわからないのに。
 
だから、ずっと、待っている。
誰かが僕をそこへ――どこかへ――
連れて行ってくれるはずだと。
 
目の前にあるモノは、すべてニセモノ。
触れようと手を伸ばせば、
あっという間に崩れ落ちてしまう。
だから、触れてはいけない。
信じてはいけない。
この世のすべては、ニセモノだから。
 
何かに触れてしまう前に、
僕をそこへ――どこかへ――
連れて行ってほしい。
この世界を信じてしまう前に
早く、早く、ここから抜け出さなくては。
 
そして僕は、
誰かを――何かを――
待ちきれずに、やみくもに歩き始める。
ただ、ここから脱するために、
そこを――どこかを――
目指して進む。
 
自分のいるべき世界を探し続け、歩き続け、
僕はずっと、彷徨い続ける。
やがて倒れ、朽ち果ててもなお、
僕の世界にたどり着くまで。

朗読/蒔苗勇亮