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太陽

「冬って寒いんだなぁ」
 
家路をたどりながら、ポツリとこぼれたひとこと。
そんな当たり前なことに、
いまさら気づいたのか、オレは…。
 
去年まではぽかぽかとあたたかい笑顔が
すぐ隣りにあったから、
冬が寒いなんて当たり前のことに
気づきもしなかったんだ。
 
そういえば、夜道がこんなに暗いっていうのも
最近になって初めて知った。
笑っちゃうけれど、本当の話だ。
 
いつだって、キラキラとまぶしい笑顔に
照らされていたから、
暗闇なんて知らずにいた。
オレは光に包まれていたんだ。
 
あたたかくてまぶしい太陽がなくなるなんて、
誰も考えはしないだろう。
だから、オレは油断していた。
そして、バチが当たった。
 
オレの世界から、太陽は消えた。
そしてもう二度と、昇ることはなかった。
 
それからずっと、オレの世界は暗闇の中。
ひとすじの光も見えず、
寒さに凍えるオレの前には、
真っ暗な道だけが伸びている。
誰もいない我が家へと続く、
灯りひとつない、真っ暗な道が。

朗読/山口龍海