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定食屋
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「女ひとりで定食屋って…ほんと、お前は色気ねぇな」
と、憎まれ口をたたきながら、
カウンターでメンチカツを頬張る彼女の隣に腰を下ろす。
チラリと視線だけよこした彼女は、
まるで興味がない、とでも言いたげで
すぐに皿へと向き直り、
口の中の幸せを味わうことに集中しているようだ。
「オレの存在は、メンチカツ以下か!」
と、悔しがっても仕方がない。
だってオレはただの同僚。
友だち、というのも少々おこがましいのが現実だ。
メンチカツ以下、さもありなん。
どうして彼女が、こんな筋金入りの定食屋に通うのか、
そのワケを、オレは知っている。
彼女には忘れられない人がいる。
初めてのランチであの定食屋に連れていくような
無粋な男を、彼女は今も待っているのだ。
「オレなら、ひとりにしたりしないのに」
なんて、言えもしない本音はゴハンとともに口の中に押し戻し、
素知らぬ顔で、彼女と同じメンチカツを食す。
あ、旨い。それが、何だか悔しい。
それでもオレは性懲りもなく、
明日も色褪せた暖簾をくぐり、
憎まれ口を叩きながらカウンターに腰を下ろす。
いつか彼女が、その目にオレを映してくれるまで。
朗読/空閑暉
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