「困ったなぁ」
そう言いながら、薄く微笑む彼を
彼女は少し睨むように見上げる。
「全然、困ってなんかいないくせに」
ポツリとこぼれた彼女の言葉に
彼はまた、うっすらと笑った。
まるで子ども扱いだ、と彼女は思う。
それが不満で、それが不安で、
彼女はきゅっと唇を噛む。
いつだって彼は穏やかで、冷静で、
恋をしている熱を感じさせてくれない。
だから彼女は、
いつも不満で、いつも不安で、
彼の気持ちを信じきれないでいる。
けれど、彼女は知らない。
彼が大人の余裕の裏に隠した気持ちを。
彼女の言葉ひとつに、仕草ひとつに、
一喜一憂しては揺れ動く心の内を。
いつか、彼女も気づく日が来るだろうか。
「困ったなぁ」に込められた、彼の本音を。
STORY's
ことばやコラム
YouTube
ことばやの仕事
お問い合わせ