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大人のカレ

大人のカレ

「困ったなぁ」

 

そう言いながら、薄く微笑む彼を

彼女は少し睨むように見上げる。

 

「全然、困ってなんかいないくせに」

 

ポツリとこぼれた彼女の言葉に

彼はまた、うっすらと笑った。

 

まるで子ども扱いだ、と彼女は思う。

それが不満で、それが不安で、

彼女はきゅっと唇を噛む。

 

いつだって彼は穏やかで、冷静で、

恋をしている熱を感じさせてくれない。

だから彼女は、

いつも不満で、いつも不安で、

彼の気持ちを信じきれないでいる。

 

けれど、彼女は知らない。

彼が大人の余裕の裏に隠した気持ちを。

彼女の言葉ひとつに、仕草ひとつに、

一喜一憂しては揺れ動く心の内を。

 

いつか、彼女も気づく日が来るだろうか。

「困ったなぁ」に込められた、彼の本音を。