小さい頃、転んでケガをすると
いつも母がかけてくれたおまじない。
「ちちんぷいぷい。
痛いの、痛いの、飛んでけ~」
そうすると、痛みが少し和らぐようで
私はすぐに泣き止んだ。
母はニッコリと笑って
「ほら、もう痛くないでしょ」
と頭をなでてくれたっけ。
大人になるにつれ、
転んで泣くようなことはなくなったけれど、
痛みを感じることは今でもある。
たとえば、今夜の私がそうだった。
避け続けていた事実を目の前に突きつけられた。
本当は知っていた。気づいていた。
でも、目を背けて知らないふりをしてきた。
無駄な抵抗だとわかっていたのに。
サヨナラを告げられるよりも残酷な最後通告に
私の心はひび割れ、じくじくと血がにじむ。
痛くて、痛くて、痛くて。
私はその場にうずくまる。
降り出した雨にかき消されそうな声で
私はおまじないを唱える。
「ちちんぷいぷい。
痛いの、痛いの、飛んでけ…」
ピシリ、と音を立て、
ひび割れた心が粉々に砕け散る。
その欠片を拾い集めることもできずにいる私に、
誰も見向きもしない。
冷たい雨だけが、涙を隠すように
いっそう激しく降り注いでいた。
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