いつの間にか、
右と左に分かれてしまった私たちの進む道。
それが再び交わることはない。
どんなに歩いても、先を急いでも、
そしてたぶん、
来た道を逆にたどってみたところで
もう、ふたり一緒にいた日には戻れない。
これを運命というのなら、
それは何と残酷なことだろう。
けれど、私は嘆いたりはしない。
私から幸せな時間を、大切な存在を取り上げ、
ほくそ笑んでいるであろう
運命とやらの思い通りになど、なるつもりはない。
すべてを失ったはずなのに?
いいえ、私の中にはまだ残っている。
あの人の声が、笑顔が、ぬくもりが。
大好きな紅茶を飲む仕草や、
日曜の朝の寝ぼけ眼。
たまに作ってくれた微妙な味のパスタとか、
ロマンチストで涙もろかったことや、
下手なジョークで笑わせてくれたこと。
あの人についてのどんな些細な出来事だって
私は何ひとつ失くしてなんかいない。
あの人と過ごした記憶は、
色あせないまま鮮やかに、
ずっとこの心にあるから。
もし、運命がそれすら取り上げようするなら、
その時は、私が運命をあざ笑うつもり。
「無駄なことね」
と、とびきりの笑顔で。
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