「姫さま、姫さまっ。ご無事でございますか?」
「 つき、しろ?」
「はい、月魄は、月魄はここにおります」
「月魄、怪我はない?」
「私のことなど…。姫さまはご自分の心配を!」
「でも、月魄がいないと、私が困るもの」
「姫さま…」
「ねぇ、月魄。ここは…」
「地の国、でございますよ…たぶん」
「地の…ということは、私たちは落ちてしまったの?」
「申し訳ありません、姫さま。私がもっと注意をしていれば…」
「今宵は朔。月の宮が闇に染まる日。その闇に紛れて、いつの間にか、私たちは宮の外へ出てしまっていたようね。だから、地の国へと落ちてしまった…」
「だとしますと、月が満ちる十五夜まで、宮に戻ることは叶いません」
「月魄の力があっても、帰れないの?」
「はい、私では力及ばず…。申し訳ありません」
「そう…。それならば、月が満ちるまで、地の国を楽しむことにいたしましょう」
「姫さま?」
「だって、せっかく地の国まで降りてきたのよ。それに、月の宮を出ることなど、お父様はお許しにならないはず。これが最初で最後になるわ、きっと。だもの、楽しまなくちゃ損だわ」
「姫さまは…たくましいですね」
「月魄、それは褒め言葉かしら?」
「も、もちろんです! 全力の褒め言葉でございますよ」
「でも、楽しむとは言っても…私たち、地の国のことを何も知らないわ」
「知らなければ、聞けばいいのですよ。ほら、あそこにちょうど良さそうなお人が…」
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