乃々と過ごそう…って、冗談交じりに本音を漏らしてみても、きょうちゃんは私の気持ちに気づくことはない。言えない想いを抱えているのは、何もきょうちゃんだけじゃないんだよ。
私だって、相手に言えない、誰にも言えない恋をしている。
ずっと一緒にいられる親友ってポジションを手に入れた。うれしい、でも、苦しい。でもやっぱり、そばにいたい。そんな想いは、誰にも知られちゃいけない。
きょうちゃんと初めて逢った日は、今でも私の宝物だ。あれは、高校の入学式。
新入生代表として壇上で挨拶をするきょうちゃんは、子どもの頃に見た絵本の王子様に似ていた。スラリと高い背、しなやかな身のこなし、やさしげな微笑み、そして、よく通る耳に心地いい声が、私の胸を揺さぶった。
私はあの日、きょうちゃんに恋をした。だけど…きょうちゃんの瞳を独占する男が、いた。
「乃々、遅れてごめん」
「走ってこなくてもよかったのに。ほら、汗すごいよ」
「だって、乃々を一人で待たせてたら、あっという間に男の子に囲まれちゃうじゃない」
「きょうちゃんが、乃々をナンパ男から守ってくれるの?」
「乃々の可愛さは罪深いからねぇ」
いきなり、私ときょうちゃんの会話に割って入った声。それが、アイツだった。
「鏡花?」
「え?」
「やっぱり、鏡花だ」
「あれ、良夜? 何してるの、こんなところで」
「それは、俺のセリフだ。お前こそ、何やってんだよ」
「私は友だちと…」
「きょうちゃん? 誰…その人」
「あぁ、ごめんごめん。これ、良夜。私の幼馴染」
「おい、鏡花。これってことはないだろう?」
「あら、良夜の扱いなんて、これ、で十分でしょ?」
「ったく、失礼なやつだな。で、そちらは鏡花の友だち?」
「あの…」
「何よ、良夜。紹介してほしいの?」
「鏡花の友だちなら、挨拶くらいしておかないとな」
「えー、可愛い乃々が減るからイヤ」
「何だよ、減るって。減るわけないだろ。バカか」
「バカって言うやつがバカなんです~」
「きょうちゃん…その人と、仲がいいんだね」
「あぁ、腐れ縁? 生まれたときから一緒だからねー」
「姉弟みたいなもんだからな」
「姉弟…ねぇ」
「イヤなのか?」
「べ、別に、イヤじゃ、ないけど…」
すぐにピンときた。きょうちゃんはこの男が好きなんだって。
ほんの少しだけ、きょうちゃんの声がいつもより高い。落ち着いた口調が崩れてる。何より、きょうちゃんの瞳には、さっきからずっと、この男しか映っていない。
さっきまで私を映していた瞳なのに。あっさりと追い出されてしまった。
どうしよう。いつものように、この男を誘惑してしまおうか。きょうちゃんから離れていくように。私よりも、きょうちゃんとの距離が近いこの男を、そのポジションから引きずり下ろすために。
初めて会ったあの日から、気に入らなかった。
アイツが、アイツだけがきょうちゃんの特別だって、わかっていたから…。
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