秋生はにっこりと笑って頷いた。
彼女は、小さい頃に事故で大きなやけどを負い、全身にその跡が残っていた。身体は洋服で隠せるが、顔はメイクでも隠し切ることができず、けっこう目立つ状態なのだ。
そんな彼女に対し、周囲は一歩引いて接しているところがたしかにあった。秋生はそれを仕方ないと思いつつ、いつも少しだけ傷ついていたらしい。
そんな秋生に普通に話しかけたのが私。気負いもてらいもないフラットな態度の私は、秋生を驚かせ、と同時に、とても喜ばせたらしい。
私にとって秋生は「友だち」だったが、秋生にとっての私は「特別な友だち」だったらしい。
あれもこれも「らしい」となるのは、今日こうして聞かされるまで、秋生がそんな風に私を見ていたことなど、まったく知らなかったからだ。私はほんのりと心が温かくなるのを感じていた。
「いいよ、果南になら貸してあげる。だから、ちゃんと秀一に伝えておいで」
そう言ってくれた秋生に、私は思わず抱きついた…つもりだった。しかし、すり抜けるはずだった私の身体は、そのままスーっと秋生の身体に吸い込まれていった。
「え、え、何これ? 私、秋生の中に入っちゃったの?」
すると、どこからともなく穏やかな、もはや聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。
「彼女が同意していたから、身体に触れるとその中に入ることができるのよ」
姿は見えないけれど、戸惑っている私に解説をしてくれたらしい。
ちょうど良かった。ついでにと言うか、肝心なことを聞いておかなくちゃ。
「じゃあ、借りた身体から出るときはどうすればいいの?」
おそらく、妖艶とか形容詞を付けたくなる微笑みを浮かべているであろう彼女が、そっとささやく。
「成すべきことが終われば、自然に身体から抜け出るから、心配はいらないわ」
いや、ちょっと待って。それって、私が伝えるべき言葉を秀一に伝えられない限り、秋生の身体から出るのは不可能ってことよね?
いやいやいや、ない。ないわー。だって、何を伝えるのか、未だにわからないのよ。なのに、それってハードル高いから!
そんな私の心の叫びを知ってか知らずか、彼女はクスクスっと笑い声だけ残して気配を消した。
先に言っといてよ、そんな大事なこと。秋生の身体に乗り移ったままになっちゃったらどうするのよー!
「果南、落ち着いて。とにかく、秀一のところへ行ってみたら? すべてはそれからでしょ」
妙に落ち着いた声が私の頭のなかに響く。アタフタする私とは違い、秋生はどっしりと構えていた。
「そ、そうだよね。秀一に逢いにいかなきゃ、話は始まらないよね」
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