トップ  > Night★Cap Story  > 戸惑う男

戸惑う男

一瞬、何が起こったのかわからなかった。
だから、ただ唖然と見つめるしかなかった。
目の前にいる彼女を。
 
キミは、一体、誰だ?
 
いつもあたり前に一緒にいて、
些細なことで笑い合い、
くだらないことでムキになり、
ケンカをしても、仲直りをしても、
それはいつものこと。
オレたちは、ずっと“友だち”だった。
 
これからも変わらないと思っていた関係が
驚くほど簡単に崩れていく。
わずかな仕草で。小さなひとことで。
 
心を和ませるような微笑みも、
いたずらっぽく輝く瞳も、
ポンポンと小気味よく言葉を放つ唇も、
オレの目の前から消えていた。
そこにいるのは、“友だち”だった存在だ。
 
きっと、元には戻れないのだろう。
それは、わかっている。
けれど、心に灯ったこの感情は何だ。
それが、わからない。
 
甘く痺れるような、ツキンと痛むような、
揺れたり、昂ったり、締めつけられたりするこの胸は
何を告げようとしているのか。
 
その感情の名を、オレは知らない。

朗読/山口龍海