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雨やどり

「あ、雨やんでる。よかったぁ~。今日はついてるな」
 
(やぁ、今日もゴキゲンだね。どうしてわかるかって?
 だってほら、スキップするみたいに歩いてきたからね)
 
「久しぶりのデートだもん。
 昨日、てるてる坊主にお願いしててよかった!」
 
(さっきまでパラついていた雨がやんでしまったのは、
 きっと、キミの笑顔のせいだね)
 
「あれ、めずらしい。約束の時間より早く来てるなんて。
 あ、そうか。だからさっきまで、雨が降ってたんだ」
 
(そうかもね。でも…
 どうしてそんな悲しそうな顔をするの?)
 
「ねぇ…どうした、の?
 さっきからずっと難しい顔をして」
 
(そんな顔、しないで。
 ほら、キミらしくないよ)
 
「黙ったままなんて、ずるいよ…」
 
(泣かないで。お願いだから。
 いつもみたいに笑ってみせて)
 
「待って。ねぇ、待ってよ…」
 
それ以上、言葉は続かず、
キミはただ、静かに泣き続ける。
 
僕にできるのは、置き去りにされたキミが、
再び降り出してきた雨に濡れないよう、
葉陰にかくまってあげることだけ。
 
やさしく抱きしめることはできないけれど、
その涙がやむまで、あまやどり、していけばいいさ。
だって僕は、マロニエの木。

朗読/金田賢一、大和ほなみ