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あなたがいれば

濁った不快な空気が身体にまとわりついて
どうしようもない苛立ちを感じる。
自分が吐き出す、ため息すらも煩わしく
イライラと、騒がしい街をひとり歩く。
 
こんなとき、あなたが隣にいてほしい。
 
灰色の空が、どんよりと心を濁らせていくけれど、
あなたが陽だまりみたいな笑顔で包んでくれたら、
それだけで僕は、幸せになれるから。
 
澄んだ青空に焦がれる僕をあざ笑うように
濁った空からぽつり、ぽつりと、雨粒が舞い落ちる。
いっそ、土砂降りになってしまえば諦めもつくのに、
雨はシトシトと、ゆるやかにこの身を濡らしていく。
 
こんなとき、あなたに逢いたいと願う。
 
冷たくなっていくこの身体を
やさしく抱きしめてほしい、と思う。
その胸の中で安らぎに満たされて、
ゆっくりと静かに溶けてしまいたい、と思う。
 
けれど、どんなにこうても、あなたに逢えない。
どれほど焦がれても、あなたは来ない。
叶うことのない願いは、やがて絶望に変わり、
ジワジワと、僕の心を蝕んでいく。
 
あなたのいないこの世界は
色を失くし、憂うつなモノクロが広がっていく。
止めることも、後戻りすることもできず、
僕の身体も、心も、モノクロに染め上げながら。

朗読/井せきただし