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クリスマスが終わるまで

オレはいつだって言葉が足りない。
 
「週末の予定、延期して。仕事が入った」
 
ごめん、とひとこと言いそびれて。
仕事を断れない事情も、言い訳みたいで言えなくて。
ため息混じりの彼女に気づかないふりをして電話を切る。
 
何やってんだよ、オレ。
 
自分で自分に呆れかえる。
反省しているはずなのに、
オレはやっぱり言葉が足りない。
 
「来なくていいって言ったのに。風邪、うつるぞ」
 
ありがとう、が素直に言えなくて。
助かったよって笑いたいのに照れくさくて。
少しがっかりした顔の彼女を避けるように寝返りを打つ。
 
どうしようもないな、オレ。
 
それなのに、
彼女に愛想を尽かされるのを怖がっているなんて、
情けないに程がある。
 
今日こそきちんと伝えよう。
言いそびれていた、たくさんの「ごめん」を。
今日なら素直に言える気がする。
言わずに心にため込んだ「ありがとう」を。
 
たくさんの奇跡が舞い降りるクリスマスだから。
たくさんの幸せが降り注ぐ特別な日だから。
 
少し窮屈そうにビルの谷間に沈んでゆく夕日を眺めながら
オレはタイミングを待っていた。
大切な言葉を切り出す絶好のタイミングを。
 
大丈夫。まだ、日は暮れ始めたばかり。
時間はたっぷりあるから。
もし日が暮れても、今度は月明かりが照らしてくれるから。
 
今日が終わるまで。聖なる魔法が消えるまで。
じれったい想いを抱えたまま、
今はまだ、何も言えずにいたとしても。

朗読/山口龍海