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フェイント

遠慮も恥じらいもなく、
真正面から、草食なのかと問われ、
少なからず面食らった。
でも、そこは大人。うろたえたりはしない。
 
「野菜は好きだな。身体にいいし」
 
トボけた答えではぐらかす。
草食のつもりもなければ、枯れた覚えもない。
単純に、目の前のお嬢ちゃんに食指が動かない。
ただそれだけの話だ。
 
そんなオレを、アイツは高みの見物とばかりに
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて見ている。
ほぉ、他人事を決め込むつもりか。オモシロイ。
 
「まぁ、肉も食うけどな」
と言いながら、お嬢ちゃんの横をすり抜け、
さり気なくアイツに近づく。
すれ違いざま、その耳にだけ届くように囁いた。
 
「お前が相手ならな」
 
一瞬にして変わったアイツの表情に満足し、
オレは思わずほくそ笑む。
傍観者になんかしてやるものか。ザマアミロ。
 
動揺を隠しきれないアイツと、
事態が飲み込めないお嬢ちゃんを残し、
オレは、上機嫌で休憩室を後にした。

朗読/空閑暉