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星空に微笑みを

彼女は時折、小さくため息をつき、
うつむきながら歩いている。
理不尽なことばかり起こる毎日に疲れ、
どうやら彼女は、笑い方を忘れてしまったらしい。
 
うつむいてばかりの彼女に気づいてもらいたくて
僕はちょっとしたイタズラを仕掛ける。
つかの間、世界からあらゆる音が消え、
街の灯りがすべて消えた。
 
違和感を覚え、彼女が顔を上げる、と
その目に飛び込んできたのは、
暗闇の中で瞬く小さな星たち。
 
唖然とする彼女に微笑むように、
僕は精一杯、輝いてみせた。
「元気になあれ」と願いながら。
 
けれどそれは、ほんの一瞬の出来事。
魔法が解けたように、空は元の鈍色へと帰り、
星たちもネオンの洪水に埋もれるように見えなくなった。
僕の小さな光も、もう彼女には届かない。
でも、きっと大丈夫。
 
彼女が再び歩きだした。
けれどほら、うつむいてなんていない。
まっすぐ前を向いて、
時々、名残惜しそうに空を見上げ、
彼女は歩いていく。
その顔には小さく、微笑みが浮かんでいた。

朗読/山口龍海