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チョコレートをひと粒

少し不格好に結ばれたリボンをほどき、
包装紙を丁寧に、破らないようゆっくりと剥ぎ取れば、
現れたのは、甘い香りを放つ小さな箱。
その中に何が入っているのかくらい、
ニブい僕にだってさすがにわかっている。
 
バレンタインデーにチョコを貰う。
その意味がわからないと言うつもりはない。
義理チョコという可能性も否めないが、
愛の大小、想いの種類に違いはあれど、
嫌いな相手にチョコを贈るほど
女性たちもヒマではないはずだ。
 
そこまで考えて、贈り主の顔を思い浮かべる。
無駄なことは極力しない面倒くさがりな性格。
余計なおせっかいなど大嫌いなドライな態度。
「お局様まっしぐら」と陰口を叩かれる仕事人間。
そんな同期の彼女からの、初めてのプレゼント。
だからきっと、この箱には意味がある!
と、僕は思いたい。
 
いっそ恐る恐る、箱を開けてみる。
中に入っていたのは、
だいぶ見た目が残念なチョコレート。
どう見ても手作りなそれを、じっと見つめていたら、
何だか、たまらなく愛おしさがこみ上げた。
 
あの面倒くさがりで、ドライで、
仕事ひとすじの彼女が僕にくれた
ちょっといびつなチョコレート。
ひと粒ほおばれば、甘くとろけて、
僕の心はそのままグラリと、彼女の手の内に堕ちた。

朗読/山村怜央