赤、橙、黄。
その人が歩くたび、美しい色たちが周囲を舞う。
穏やかでたおやかな秋の女神が今、塔を出てゆく。
新たにこの塔の主に治まるのは、
凛とした冷たい空気をまとう冬の女神だ。
この国は、4人の女神に守られている。
朗らかであたたかな春の女神。
情熱的でおおらかな夏の女神。
そして今、去っていった秋と、
入れ替わるようにやってきた冬。
女神たちは高い高い塔のてっぺんからこの国を見渡し、
それぞれが持つ恵みを与える。
しかし、冬の女神のそれは、民たちに歓迎されない。
すべてが白に覆い尽くされる環境は厳しく、
一年のうちで唯一、何も与えられない季節だ、と嘆く。
けれど、冬があるからこそ、
雪を割って芽吹き、咲き誇る花を美しいと感じ、
まばゆい太陽のありがたさを知り、
豊かな実りを謳歌できるのだと、民たちは知らないのだ。
今年もこの国に、冬がやってきた。
厳しい眼差しを向ける女神に、
民たちは感謝を捧げない。
それでも冬の女神は、この国を見守り続ける。
高い高い塔のてっぺんで、ひとりきり。
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