「きょうちゃん、早く。こっち、こっち」
「乃々、ちょっと待ってよ」
「この匂い~、もう我慢できないっ!」
「まったく、食いしん坊だなぁ、乃々は。そういうところも可愛いから、ほんと、罪深いわ」
「まずは、たこ焼きからだよね」
「大阪焼きも捨てがたいなぁ」
「たしかに!」
「どっちも粉モンだろ? たいして変わらなくないか?」
「はぁぁ…良夜くんってばわかってないなぁ」
「これだから、素人は」
「素人ってなんだよ。粉モンにプロも素人もあるか!」
「しょうがないよ、きょうちゃん。だって、良夜くんだもん」
「そっか。良夜だもんね、仕方ないか」
「何だよ、人を残念な男みたいに」
「え、違うの?」
「違わないと思うよ」
「お前らなぁ…」
今夜は、乃々と私、おまけに良夜も一緒に縁日に繰り出した。
子どもに戻った気分で遊ぼう、と乃々に誘われ、元々は、乃々ふたりで来るはずだった。そこに良夜が飛び入り参加することになったのは、出掛けに玄関先でばったり会ったからだ。
良夜とは家が隣同士なので、ばったり…というのは珍しくない。けれど、私が友だちと出かける予定に便乗してくるなんて。そんなことはめったに、いや、今までなかった。
一緒に出かける相手が乃々だったから、なのだろうか。
なにせ乃々は可愛い。彼女とお近づきになりたい男は、昔から引きも切らない。つまり、良夜も乃々と仲良くなりたい…のかもしれない。
幼馴染である彼に長年の片想いをこじらせている身としては、少々複雑だ。でも、心のどこかで仕方ないと思う自分がいる。結局、いつだって乃々にはかなわないのだ。
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