「最期に、したいこと?」
「そうよ。そろそろ説明を始めていいかしら?」
私は黙ったままコクリとうなづいた。
「あなたは今から数日間、この世に留まることができるの。
本来は七日間と決まっていたんだけど、最近は初七日の法要をお葬式と一緒に済ませてしまうでしょ。それでね、システムが変わってしまって。今はお葬式が終わるまでということになっているの。
この世にいられる数日間で、あなたは“この世でし残したこと”をするのよ。たとえば、大切な人にサヨナラを言いに行ったりするの。
何をするかはその人の自由。中には恨みを晴らしに行く、なんて人もいないわけではないけど、おすすめはしないわね。
あなたが自分の死んだ原因を知りたいのなら、お葬式が終わるまでに何とかすることね」
へぇー、そうなんだ。死んだ後ってそういう手順があるんだ。まあ、知らなくて当然か。死ぬの初めてなんだし。
「さて、一通り説明も終わったから、私はそろそろ帰るわね」
彼女はどこへ帰るんだろう。私も“最期にしたいこと”が終わったら、彼女と同じ所へ行くのかな…
なんてことをのんきに考えていたら、少女はすでに私から少し遠ざかった位置にいた。
「じゃあ、最期の日々を有意義にね。何か困ったことがあったら、助けに来るから」
お役目終了!とばかりに少女は笑って手を振っている。
「あ、ちょっと待って。どうやってあなたを呼べばいいの? 困った時とか。スマホ繋がる?」
「さすがにスマホは使えないけど、あなたが困ってそうな時にはなんとな~く現われるから。ほら、今日みたいに。だから、心配しないで」
「ちょ、なんとな~くって、そんないい加減な…。ねぇ、待って、待ってってば!」
さっきまで少女が立っていた、いや、浮かんでいたあたりに向かって叫んでみたものの、少女はすでに消えた後だった。思わず、呆然と立ち尽くす、いや浮き尽くした。
途方に暮れる私に、もう姿の見えない少女の声だけが返ってきた。
「ひとつ言うのを忘れてたわ。誰かのところへ行きたい時は、その人を思い浮かべれば飛んでいけるからね。けっこう便利でしょ、ユーレイって」
クスクスといたずらっぽい笑い声を残して、少女の気配は完全に消えた。
ひとり取り残された私は、彼女が残した最後の言葉に打ちのめされていた。
そうか、私、ユーレイになっちゃったんだ。
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