「あるわよ、もちろん」
「ど、ど、どうすればいいの? 教えて、今すぐ!」
勢い込む私をなだめるように、少女はいっそう落ち着いた声色で語りかけた。
「誰かの身体を借りれば可能よ。ただし、誰の身体でも自由に借りられるってわけじゃないわ。基本的には、相手の同意が必要だから」
「相手の同意?」
「そう。あなたに身体を貸すことを、その人が納得するのが条件なの」
そんなの無理だ。だって、生きてる人には私の姿なんて見えない。声だって聞こえない。そんな状況で、どうやって納得させられるの?
私の疑問はすべて顔に出ていたらしい。少女はやわらかな笑みを浮かべながら、話を続けた。
「たしかに、ユーレイの意思を汲んでくれる人なんて滅多にいないわ。運良く、あなたの姿が見える人がいたとしても、簡単に承諾はしてくれないでしょうね。身体をユーレイに貸すなんて。でもね、人間じゃなくてもいいの、乗り移るのは」
へっ? 頭の中が疑問符でいっぱいになる。もしかして、私は少女にからかわれているのだろうか。
「動物はね、人間よりもずっと霊感が強いの。猫が何もない空中をじーっと見つめていることってあるでしょ? あれはね、そこにいるユーレイを見てるのよ」
猫には見えるんだ、ユーレイが。初めて聞いた。じゃあ、今の私の姿も猫になら見えるってこと?
「だから、物に触れたかったら猫を捜しなさい。なるべく性格の良さそうな猫をね。彼らは気まぐれだから、あなたの願いを必ず引き受けてくれるとは限らないけど」
「あ、でも姿は見えても、猫じゃ言葉が通じないんじゃ?」
予想通りの疑問だったのか、彼女は再び、にっこりと微笑む。
「言葉にしなくても通じるはずよ。あなたが心からそう願えばね」
そう言うと、少女は音もなくスッと消えてしまった。
ひとり取り残された私は、まだ半信半疑でいた。
猫を説得して身体を借りる? いまどき子供向けのSF小説でも書かないようなネタだけど、今の私にはそれを信じて実行するしかない。この際、陳腐でもご都合主義でもなんでもいい。モノに触れるようになるなら、手段なんて選んでる余裕も暇も、私にはないんだから。
そう心で叫ぶと、私は早速、猫探しを開始した。
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